アメリカ最大の産業は、自動車でも軍事でもなく

S「……実は肥満なのでは、と先日ふと想像しまして」
M「なんですかそれ。食べ過ぎで太ってるのでダイエット産業が発達して、とかそういうことですか」
S「いやいや、そういうことじゃなくてね。うーむ、むしろこう言い直したほうがいいのかな。アメリカにおける消費……特に二十世紀後半になってからの大量消費……というのは、昨今の世界経済の中では一種の『労働』と看做したほうが解りやすいんじゃないかと」
M「????」
S「そういうふうに妄想すると、財政赤字貿易赤字で家計も赤字のアメリカが、ドルをばんばん発行しててもちゃんと受け取ってもらえてた理由が、納得できるなあと思ったわけですよ。
つまり、他の国(たとえば日本)は普通の『労働』をして製品を生産してアメリカに売る。アメリカは製品を消費するという『労働』をこなす。その取引の証書としてアメリカから日本へドルが手渡されるけど、これはどのみち投資という形でアメリカ国内へ還流するか、米国債を買って外貨備蓄という形で塩漬けにされるかだし、おまけに過去半世紀で価値が4分の1に減っちゃってるので、実際はあんまり意味がない。
そんなわけで、ぐうたら遊んでばかりと思われがちなアメリカ人は、実はものすごい勢いで世界経済維持のために『労働』していて、過労死の代わりに肥満で不健康になってばたばた死亡している、と。いつまで保つやら、このシステム」
M「すっかり妄想モードだなあ。というか、それ小説のネタにしたらいいんじゃないですか」
S「じゃあ次のSF短篇はこれで」
M「でもドルが流通してるのは、あれが基軸通貨だからじゃないんですか。国際貿易の」
S「もちろん歴史的にはそのとおりなんだけどね。一次大戦で大英帝国が借金まみれになって、ドイツも戦時賠償で大変なことになって、そのお金はぐるっと巡ってアメリカに集中して、そしたらお次は二次大戦、その末期にブレトンウッズでケインズとホワイトが丁々発止、ってあたりから話は始まって。ここで新城が気になってるというか感心してるのは、どうしてそれがまだ続いてるのか/よくも今までちゃんと続いてきたもんだなあ、という点なのですよ。19世紀のポンドの場合は、大英帝国が当時最大最強の債権国だったから可能だったわけだし。それにしてもバンコールは惜しかったなあ……あぁバンコール……」
M「ってどういう萌え属性なんですか、それは! そもそもなんで急に英語のサイトにリンクしてるんですか」
S「いや、こっちのほうが多少は詳しそうだったんで。ちなみに存在しそこねた通貨萌えはけっこうあると思うんですが、どうでしょう>皆様」
M「現在流通していない貨幣のコレクターなんかは聞いたことありますけど」
S「いや、新城が興味あるのは物理的なコインとかじゃなくて、通貨そのものなんですよ。通貨システム、と言ったらいいのかな。たとえばパソコンやアプリケーションじゃなくてOSの設計思想そのものに興味がある、みたいな。モールトンも同じようなところから好きになったし。去年あたりからLisp面白れ〜!と思っていろいろ読んでますし。そういうのが好きなんです」
M「はあそうですか。で、今日のオチは何なんですか」
S「特にないよ。というか、今この瞬間に全世界が直面してるこれが、オチといえばオチです」
M「人まかせですか!」