「政府紙幣とか無利子国債を出すくらいなら、いっそ各都道府県がマイレージ地方債を出せばいいんじゃない?」と彼女は言った

S「……いや、ほんとは彼女じゃなくてY君と新城のバカ話だったんですが、話の展開の都合上変えてみました」
M「そんなことはどうでもいいですから説明してください。ていうか、そもそも政府紙幣って何なんですか」
S「詳しいことはこちらあちらそちらを参照していただくとして……ようするにベースマネーを増やそう、でも日銀が増やしてくんない、じゃあ政府がやろう、みたいな話かな。それを聞いて新城が想像したのが――」
X「俺はそんなんより500円玉を大量に発行すりゃいいと思うけどね。たしか硬貨は、日銀じゃなくて財務省が発行してんだろ?」
S「そうでしたっけ。(Googleで検索して)あ、ほんとだ」
X「それにだな、政府紙幣を市中に出回らせても、もしも日銀が本気で反対してんのなら同じ速度で日本銀行券を引っ込めちまえばいいだけだろ。てことは、政府紙幣の発行ってのは、今のお札のデザインがゆっくり変わっていくだけのことじゃねえの?」
S「そこまで世の中が原則どおりにスムーズに動くとも思えないんですが。でも、じゃあ全紙幣が政府紙幣にすり替わったら、その後は? そこから先は政府がベースマネーを増やし放題でしょ。……自分で言ってて何ですが、これってなんだかボディ・スナッチャーみたいだなあ」

X「お、懐かしいな。しかも78年版か。これって今から思えば、ミスター・スポック(TOS)とデヴィッド・レヴィンソン(『インデペンデンス・デイ』)も共演してんだよな。しかも主役はジャック・バウアーの親爺。すげえ顔ぶれ」
S「素直にレナード・ニモイジェフ・ゴールドブラムドナルド・サザーランドって言ってください。それにゴールドブラムといえば、セス・ブランドル博士(『ザ・フライ』86年版)に決まってるでしょ」
X「なるほど、まったくそのとおりだ。ちなみに『ザ・フライ』で彼と共演したジーナ・デイヴィスはその後『ロング・キス・グッドナイト』で主役の姐御を演ってるんだが、そこで相手役が……」
S「サミュエル・L・ジャクソン!」
X「……は、さっきの『ジュラシック・パーク』にも実は出てたんだ。知ってた?」
S「へー、そうでしたっけ。ジャクソンと『パルプ・フィクション』で共演してたハーヴェイ・カイテルが『タクシー・ドライバー』のやられ役だったのは知ってましたけど」
X「え、そうだっけか。うわ、ほんとだ」
M「……って懐かし映画談義はいいんですけどね。話が全然進んでないですよ」
S「すまん、ひさしぶりにブログ書いてるので調子がつかめなくて。で、政府紙幣はまだるっこしいし、それに日銀券を完全に駆逐してから政府紙幣をガンガン増刷したとしても、もしも日銀が本気で抵抗しようと決めたら公定歩合を上げちゃうという最終兵器があるので、『なんですかそりゃ』な話だなあと新城は思ってて……でもこないだ昼の奥様番組たまたま観たら、まじめに怒ったり反対したりしてたんだよ。で、さらに相続税が無料だか無税だかになる国債の噂も聞いたりして。そんなことするんだったら、いっそ国債も地方債もいろいろおまけを付ければいいじゃんと思って」
X「じゃあ国債を買うと、マイレージが貯まるのか。貯めたのは何に使えるんだ」
S「そこが思案のしどころですよ。今、国民は何をいちばん欲してると思います?」
M「……安心?」
S「そのとおり! 不況でリストラで猟奇事件で、みんな不安になってる。てことは、今いちばん貴重なのは安心。だったら、国債を買ったらポイントが貯まって、そのポイントを使って安心が手に入ればいい――たとえば、いざという時にちゃんと救急車が来てくれて医者が診断してくれるとか。きれいな水や安全な食品が確実なルートで手に入るとか」
X「地方の特産品はどうだ。秋田県の地方債を買うと、おいしい米がたっぷりと」
S「北海道の道債は、新鮮な雪が冬場にどかっと庭先に」
M「なんか映画会社の株主になると優待券がついてくる、みたいな話ですね……あ、だからさっきあんなに映画の話をふってたんですね!」
S&X(顔を見合わせる)
M「そうか、あれはぜんぶ伏線だったんだ!」
S「いや」
X「べつに」
S「そんなつもりは……」
M「えー! そういうことにしときましょうよー!」
S「わかったわかった、わかったからそんなに泣くなってば」
X「ところで俺も今ふと思ったんだけど、昨今の政府紙幣発行話ってもしかしてアメリカ国債引き受けの原資なんじゃねえの」
S「またそんな急に妄想力をフル稼働させて……」
X「だって考えてみろよ。今回の経済刺激パッケージだけで1兆ドルだぜ。110兆円ですぜ、最近のレートで。しかも、それで終りじゃない。需給ギャップは2.9兆ドルだっつうんだから、もう何をか言わんやだ。とんでもない額の米国債が出回るんだ、これから。そんなの日本以外のどんなバカどなたが引き受けるんだよ。中国か?」
S「そのへんは両天秤にかけつつ、微妙に日本に秋波を送ってるみたいですよ」
X「(CNNを観ながら)おっと、最新のデータだと総計3.9兆ドルとか言ってるぞ、今回の経済刺激の総支出。ほんまかいな」
S「そうだ、それで思い出した。以前に出した経済ネタに関連した話ですが……ロシアでは既に似たようなシステムが稼働中だそうですよ」
X「ほほう。さすがは人類史における珍経済見本市だな>ロシア」
S「またそんな怒られそうなことを。でも確かに、ソ連時代も含めて『バーターといえばロシア』というイメージは……あるなあ……COMECONとかコンビナートとかも要するに巨大な現物決済だったわけで……ちなみに記事にはこんな指摘もありました:

In the mid-1990s, barter transactions in Russia accounted for an astonishing 50 percent of sales for midsize enterprises and 75 percent for large ones.
The practice kept businesses afloat for years but also allowed them to defer some fundamental changes needed to make them more competitive, like layoffs and price reductions. It also hurt tax revenues.
新城による和訳:
「90年代半ば、ロシアにおけるバーター取引は中規模企業の売上の50%という驚くべき比率であり、大企業に至ってはその売上の75%を占めていた。この慣習は(国内の)さまざまな産業を数年間延命させはしたが(そのかわり)根本的改革を後回しにさせることにもなった……たとえばレイオフや価格下落などである。加えて、税収も減ってしまった。」

うーむ。なんかプーチン政権に同情しちゃうような一節ですな」
X「なるほど。日本も明日は我が身かも知らん。そんな状況に対抗するにはアレにナニするしかないぞ、うん」
S「え?」
X「ほら。アレがアレするのをナニするんだよ」


   モンティパイソンより:『英国政府、性行為に課税を決定』



M「…………」