われら銀河をググるべきやDo We Dare Google the Galaxy?【その06】:ラファイエットの子供たち、もしくは新たなるTweegle千年紀を礼賛してみるのこと

X「というわけで*1Google×著作権問題について、俺が長期的視点から礼賛してみようと思う」
S「ホントにやるんですか?」
X「ホントにやるんだ。俺はおまえと違って、ずばりと核心に入るぞ。
すなわち、Googleが今回手に入れたのは、他ならぬググる権利……今後は複製・出版・頒布する権利に替わって検索閲覧する権利が著作者人格権の主要パートナーになりますんでよろしくねという米国司法制度からのお墨付……なのだ、というテーゼからだ。
そう、検索閲覧権だ。こいつが新たな〈人類の普遍的な権利〉の一部に加えられたんだ。なんだ、その顔は。いいか、人権てのは増えたり減ったりするもんなんだよ。プライバシーとか環境権とか見りゃわかるだろ。
そもそも著作権って代物は、なぜ保証されてきたんだ? 保証されたほうが良いんだ? 決まってる。創造的な表現を日々新たに生み出してもらうためだ。そのほうが社会が豊かになる(と誰かが言い出し、立法者たちを説得し、あるいは首をすげ替えた)からだ。そして、できあがった作品が商品としてうまく流通するよう複製権やら頒布権やらが整備されてきたわけだ。
これは『言論の自由』や『特許権』『商標権』の妹、もしくは従妹みたいなもんだ。何かが新しく生み出される。それが市場メカニズム(あるいはその言論バージョンの議会)の中で揉まれて次第に洗練される。それによって我々はだんだんと『真善美』へと接近してゆく。それはすべて素晴らしいことであり、そのために必要な社会制度として言論やら作品やら発明やらは守られなくちゃならない。
……だが、誰でも自由に、ほぼ無料で、全世界にむけて、思いついたことを表明できるようになったら?
大量生産や大量輸送をしなくても、自由闊達な意見や表現が自在に発信/受信できるとしたら?」
S「…………」
X「こっから先はもう解るだろ。言論の自由著作権も、今後は複製頒布権copyrightや報道刊行の自由freedom of the pressじゃなくって、グーグルを使う自由freedom to googleを前提として機能するんだ。なぜって、今や『出版』という行為は、無料アカウントを登録すれば、どんだけアホだろうが×××だろうが全世界にむけて行使できるんだから。
そもそもcopyrightてのは、権力との関係から発生してるんだ。詳しくはWikipediaあたりで『著作権の歴史』とか検索してもらうとしてだ……ようするに大量印刷・大量出版が可能になった15世紀以降の欧州では、いろいろドタバタあったあげく、『まあ著作者が損するシステムにはしないようにしましょうや(=そのほうが税収もあがるし社会も進歩するだろうし)』みたいなところで落ち着いたわけだな。それがベルヌ条約だ。ちなみにスイスのBärn/Bern/Berne市で締結されたからベルヌだ。ヴェじゃないぞ。それはともかくとして、本質的にcopyrightはどこまでいってもお墨付だったってことは忘れちゃいかん。創造的なアイデアがきちんと流通するように王様から頂戴した葵の御紋だ。
ググる権利ってのは、そこから導き出される論理的帰結――もしくは演算的帰結computational consequenceなんだよ」
M「うーん」
X「だいたいだな、今回のGBSが書籍の商業出版への脅威だってんなら、なんで公共図書館での書籍の貸し出しには誰も反対しないんだ? Googleと違ってこっちは100%読み放題に借り放題、しかも発売とほぼ同時に全国で読めるんだぞ。こっちのほうが売上に打撃を与えるはずじゃないのか?」
S「いやでもそれは……物理的図書館の物理的書籍は、一度に一人しか借りられないから……」
X「じゃあ何か、出版社が図書館に目くじら立てないのは自分たちの商品/製品がめんどくさくて不便なものだからです、ってことなのか? 物理的出版事業は自己の商品の使いにくさ故に成立してるってのか? どういう商業倫理だよ。それに、俺はここで原理原則の話をしてるんだ。著作権だろうが複製頒布権だろうが、部分的には無償で読んだり引用してもいいってことは認めてるんだ……フェアユースってやつだ。学問の世界じゃあ、すでに数百年前から実施されてるんだし、今なんざ世界的論文が無料で読み放題だ。ああオルデンバーグ先生、貴方は本当に偉大だった……いやそれはともかく」
S「でも学問の世界では、大学とか財団の寄付とかで研究が進められてるから……」
X「だから成果物が無料でも無問題ってか? じゃあ、小説やノンフィクションやエッセイが財団の寄付で大量に発行されりゃ文句ないのか? あるいは広告をつけて無料配布されるのは認めるんだな? そのシステムと今回のGBSと、どこが違う?」
S「こないだの民間TV放送のロジックですね。でも……」
X「いいか。そもそも商業的に書籍を出版できる連中ってのは、特権階級なんだよ。
才能の有無じゃないぞ。それは特権なんだ。特権だったんだ。一番乗りしたり一等地を手に入れた者が後々まで有利であり続けるってことだ。
考えても見ろ……同じくらい面白い小説を、全く無名の素人が書いた場合と実績もコネもある有名作家が書いた場合と、現実的に考えて、どちらが楽に出版までこぎつけると思う?」
S「うーんまあそれは」
X「なぜ、そんな不平等がおきるのか? おきていたのか? 簡単だ。これまで書店の棚やニュース・スタンドのラックの物理的容積は、有限だったからだ。それは希少財だったんだ。だから編集者も出版社も取次業者も、その貴重なモノを最大限に活用しようとして色々な制度を考えついたんだ。過去の実績を評価するってのもその一環だし、それはそれで合理的な思考だ。もっとも、あんまり合理的じゃないヘンテコな旧弊も並行して生き延びてきたんだがな。
だけど、今はもう違う
ネット空間は実質上無限大だ……コンテンツで埋め尽くすよりも遥かに速いスピードで増築できるという意味において。
さて、希少財がもはや希少でなくなった場合、まず何がおきる? 経済学では基本中の基本だぞ」
S「……希少じゃなくなった財の価格が下がるのと……相対的に他の何かが希少になる?」
X「まあそんなとこだ。希少性ってのは、あくまでも相対的なものだからな。というわけで今や電子的本棚は無限大になった。代わって希少になってるのは、そこに置いてある無限の情報を処理し、咀嚼し、味わい、愉しむユーザの脳味噌の量×時間だ。もうちょっと厳密に表現するならば、人類全体が有している生化学的&機械的演算リソースの総量だ」
S「つまりあれですか、Googleに代表されるネット広告斡旋業は、現在どんどん希少になりつつあるリソースが何であるかに気がついて、そしてそれが今後さらに高値になると読んで、そこを柱にうまい商売を素早く始めたと」
X「そういうことだ。そして旧来の書店や出版社は、もはや希少じゃなくなりつつある財をどうやって相変わらずの高い値段で買ってもらおうかと四苦八苦してるわけだ。雑誌の販売不振、TVの広告収入減、著作権延長問題や放送アーカイヴのフェアユース問題、二次創作の法的権利問題……すべて根っこは同じだ。希少財を押さえたやつは儲ける。押さえ損ねたやつは苦労する。人類普遍の真理だ」
S&M「うーん、なにかどこかで騙されてるような気が……」
X「ちなみに俺がネットを散策したかぎりでは、今言ったような話をいちばんちゃんと把握してたのは、意外というべきか当然というべきか、某氏のブログ*2飛浩隆氏のブログだけだったね。某氏は著作権全体というよりも出版権をGoogleと出版社が取り合っているのでは?という点に着目していたし、飛氏に至ってはGoogleの本質を一言で言い表していた。流石だね。どちらも小説家だってところが象徴的じゃないか、ああん?」
S「それは確かに」
X「あと、ついでに言っとくと、同じ希少財を押さえるんでもGoogleYouTube含む)とTwitterは他のとはちょいと違うな、と俺は感じてる。この二つは、それ以外のネット上のサービスとは根本的に異なる情報平面に属してる……平面という表現で解りにくけりゃ、属してる次元数の違いとでも言えばいいのかな。で、どっちかっていうとTwitterのほうがGoogleよりも広い面を押さえてる」
S「広い?」
X「ていうか、手前なんだな。Googleはあらゆる『公表され蓄積された情報』を、正のネットワーク外部性でもって引き寄せたユーザたちに分析させる。重みづけをして、評価して、分類して並べ直して、それから広告主に売る。本質的には流通transmission機能でありマッチング機能だ。ところがTwitterは、新たに発信emissionしてよと誘ってくるんだ……『いま、なにしてる?』という例の決め台詞でもってな。
それは『未だかつて公表も蓄積もされたことのない情報』、つまり『今現在の我々の気持ちや意見』だ。それだけは、どんなにGoogleが張り切っても流通させることはできないし広告を貼り付けることもできない、最新断面だ(少なくともTwitter自身より先にその断面を手に入れることはできない……必死になって対応しようとはしてるらしいがな*3)。衝撃波と言ってもいい。うん、そうだな。Googleがネットの大海を手に入れているのだとしたら、Twitterは波濤だ。常に変化し、最も活気があり、ゆえに捉えどころがない。だからこそ面白いし、新しい価値が常に生まれてくる」
S「ふーむ。で、僕にどうしろと?」
X「どうもこうも、ここまで説明したら解るだろうが。新城よ、おまえは……というか、おまえたちは……いわばフランス革命直前のラファイエット侯爵みたいな立場なんだよ。旧体制のもとで幸福かつ安全に暮らしてたのが、世界がひっくり返る歴史的大事件が迫ってることに気がついた。さあどうする? 古きものに忠誠を誓って共に滅びるか? それとも新しい時代の新しい倫理と正義に殉じるか?」
S「お言葉ですがラファイエットは大革命前にアメリカ独立戦争でさんざん戦ってましたよ。どっちかっていうと、ド=ロベスピエールが貴族の称号を捨てたっていう逸話のほうが、現在の状況にふさわしいのでは……」
X「細かいことはどうでもいいだろ。ていうか俺、ロベスピエールは嫌いなんだよ」
S「じゃあオルレアン平等公……」
X「あれも嫌いだ。サン=ジュストコンドルセなら認めても良いが。あと、サド侯爵」
S「ぜんぜんキャラの方向性が違うじゃないですか! そもそもサン=ジュストがOKなのにロベスピエールがダメって」
X「ともかく、だ。今回の件が歴史的な転換点であることは間違いない。グーテンベルクの銀河系がグーグルの掌中に収まるんだ。あるいは、フェニキア文字から始まった表音文字正書法という技術体系が、一つの完成を見るわけだ。あの9.11が21世紀の幕開けだったならば、このGoogle和解案の日付……米国標準時で10.28……は、もしかしたら真の意味での第三千年紀の起点になるのかもしれん。キューイチイチからイチマルニーハチ(もしくはジッテンニーハチ)へ、だ。憶えとけ。試験に出るぞ」
S「うーん……でも……そういう未来もあり得るかもしれないですけど、でもGoogleが、あるいはGoogle的なサービスが、あと何年もつのか分かったもんじゃないし」
X「ほほう。じゃあ、次回はおまえが俺に反論してみろ」
S「えええ〜!?」

S「って、そこでこれかい! しかもハイ・クオリティーで!」
M「いやそのなんとなく」
              (以下次回)

*1:これまでの経緯や前フリにつきましては、2月後半から始まる【その00】〜【その05】およびブックマークのGooglingTheGutenbergGalaxyをご覧ください

*2:現在は読めなくなっているようなので、念のため仮名としました

*3:という一方、Twitter自身の検索サービスも始まっていますので、はたしてどちらが勝つやら予断を許しません。