われら銀河をググるべきやDo We Dare Google the Galaxy?【その03】ダーントン随想(の新城カズマ式要約)
S「というわけで読んでみましたよ、ダーントン先生のエッセイ」
Q「さっさと和訳なさいよ」
S「いやー全部訳するのは、さすがにめんどくさいんで。とりあえず要約だけ……語り口は新城の想像の中のダーントン翁風ということで:
- Google和解が成立したが、今後の予測は難しい。というわけで、私の専門である啓蒙主義時代The Age of Enlightmentとの対比で考えてみたい。(冒頭)
- 啓蒙主義の理想とは一言でいえば〈学識の共和国Republic of the Letters〉である。誰もが知識に触れることができ、自由に発言でき、議論の末に真実へと近づく。『唯才』の世界だ。印刷物(そして手書きの書簡)が自由であるべき理由はそこにこそある。もっとも実態は、なんだかんだいって特権と検閲と私怨が横行しておったのだが。(第1節)
- ひるがえって現代(特に私の専門であるところの図書館業界)を見るに、これはこれで理想的とは言いがたい。公共の利益と私的な利潤追求が200年間にわたって格闘を繰り広げた末に、著作権の期限は延長に延長を重ね、学術雑誌の年間購読料は天井知らずだ。しかし時勢は変わりつつある。オープン・ソースからウィキペディアまで、知識の民主化democratization of knowledgeは我らの手に入らんとしておる。(第2〜3節)
- とはいえ、私は情報の電子化による(個人または企業の)利潤追求を全否定しているわけではない。電子化はされねばならんが、それ以上に民主化せねばならんのだ"Yes, we must degitize. But more important, we must democratize."(第4節)
- というわけでGoogleだ。今回の和解案は長い上に錯綜しておるので、今後ここからどのような未来が湧き出るのか、正確に予測することは不可能に近い。うまくいけば〈人類ライブラリ〉が生まれ出るやもしれん。その一方、Googleの株主/経営者たちが今後隠居する際にその巨大な資産ごと会社をどこに売っぱらうか分かったものではない。そもそも、今回の和解内容はGoogleも全米作家組合も当初予想していたものではなかったのだ。確実なのは二つ……すでに事は始まってしまったということ、そしてGoogleという一私企業が(おそらくは彼ら自身の予想をも超えて)巨大な専売権monopolyを手に入れてしまったということだ。(第5〜7節)
- 我らが現に生きておる「情報(化)社会」の今後にとって、今回の件は大転換の瞬間tipping pointと言える。ここでバランスを誤てば、私的利益追求(の勢力)は公的利益を凌駕するだろう……おそらくは今後永きにわたって。そして啓蒙主義の理想はまたしても見果てぬ夢で終わるのだ。(末尾)
……というわけで、読みようによっては和解案に賛成とも警鐘を鳴らしているともとれる内容でした。すくなくとも新城の読んだところでは」
X「うーん、たしかに反論や誤解を招きやすそうな『賢者のお言葉』だなあ」
S「そうなんですよねえ。読みながら、ついついあの方↓の顔が浮かんでしまいましたよ:
……末尾の一文なんか、まさに『エルロンドの御前会議』などで彼が発したセリフそのまんまですからね。それはともかくとして、このダーントンの論に対して、WYNKEN DE WORDEというサイトのnavigating the information landscapeというエントリに興味深い指摘がありました」
As a scholar of early modern books, I have to wonder, how do we democratize those? Do we just agitate for free EEBO, Early English Books Online for everyone everywhere? Will those books be read? Will those books be understood? Every semester I see my students interact with early printed texts for the first time and initially, they can hardly make sense of what they are looking at. Why do they mix up their i's and j's? Why are there f's instead of s's? Why can't they spell? What's that word down there at the bottom of the page and where are the page numbers?!
Libraries, digital and otherwise, make texts available. But it is teachers who enable them to be read. Scanning all the books in the world won't make a Digital Republic of Learning if we don't value reading and learning in the first place.
新城要約*1:私の専門である近世初期英語書籍研究では、電子化しようがしまいがクラスの生徒たちは昔の印刷本の読み方を学ぶのに一苦労ですわ。たとえ世界中で万巻の書物が無料で読めても、ちゃんとした読み方を教えない限り――そして学習と解釈にこそ価値があるのだと社会が自覚しない限り――宝の持ち腐れなのではありませんこと、ダーントン先生?
X「まったくだ。近代化で識字率だけ上げても、アホな本ばっかり読んでたり、価値ある古典の意図や歴史的文脈を把握できなかったら、何の役にもたたんのと同じだな」
S「で、新城も今回の『誰も想定してなかった和解案』の結果、何がおきるか/おきたら面白いかを色々想像してみたんですよ。便利さと引き換えに、どんなアホみたいな事件や災厄がありえるのか。どんな裏技が可能になるのか。誰がそれを活用し、法律はどうやってそれに追いつくのか……ほぼ確実にやってくる社会変動の裏を(先回りして)かく、というのは頭の体操としては最高ですね」
Q「ははん。近未来をハックしてるわけね。早く結果を聞かせなさいよ」
S「えーと、そろそろ仕事に戻らなくちゃいけないので、そのへんのネタは明日以降のお楽しみってことで」
Q「なんですって!!」
090328追記:
その後、ネットを遠泳してたら上記随筆の全文和訳版を発見しました:
文末の注によればル・モンドの仏語からの重訳のようにもみえるのですが……ともあれ、新城の要約にも間違い等あるやもしれませんので、御一読を。
*1:日本語訳にいくつか細かい間違いがあったので訂正しました