GGG11:スキャナに生き甲斐はある・完結篇、ならびに「艦長! USS Googleがエンジン被弾、シールドも限界です!」の可能性

S「というわけで、ちゃんとした前回からは久しぶりGGGシリーズなんですが、実はこの数週間でいろいろ動きがありまして、

……などなど。まさに激動の時代です。むこう数ヶ月で、あちこちで公開討論やらシンポジウムやらも催されますし、追いかけるので精一杯ですよ。ちなみにTsudaるの名詞形はTsudaりだと思うんですが、いかがでしょう。本日も佳いおTsudaり日和で、みたいな使用法で」
M「話をすすめてくださいよ。たしか前回のヒキは、僕が――」
S「そうそう、例の『日本中のコピー機使ってスキャナ代わりにすれば日本版ブック検索すぐに立ち上げられんじゃないの?』という前回のアイデアの弱点に、君が気づいたところ……なんだけど、実はあれから、さらに簡単な方法を一つ思いついちゃってね」
M「えー!」
S「日本中の参加者が、書物をケータイにむかって朗読して、それをテキストに変換する、という方式」
M「!?」
X「ほほう」
S「この方式の美しいところは、まず

  • コピー機よりも端末の数が圧倒的に多い
  • 今すでにある技術でじゅうぶん可能

ということです。ケータイへの発話をテキスト変換してTwitterにアップしてくれるシステムは現にありますし、分散してアップされたデータを再集結されるのだって、手間がかかるだけで原理的な問題は何もない。フォントの指定は、奥付に書いてあればそれを読み上げればいいし、あるいはISBNを朗読して、それを出版社のデータベースと連動させて版下を再現するようなサブシステムがあれば、さらに完璧でしょう。なんならケータイのカメラ機能で撮影してもいい。そうすれば画像も取り込めますし。それから、

  • 時間もさらに短縮可能

ですね。こないだ考えた方法ではコピー機が必要でしたけど、今回はそれ以上にありふれてて使いやすい携帯電話なんで、本当にいつでもどこでも(それこそ風呂に入りながらでも)できるはずですから。100万人いれば半年どころか1ヶ月もあれば十分かも。どうですかね?」
M「(いろんな意味で呆れて何も言えない)」
S「例によって、誰がどこを担当するとか重複部分を調整するとか校正作業サブルーチンとかは、P2Pだかクラウドだかタグだかで何とかしてもらうとして……」
X「おまえ、技術的な細部はいつもそれだな」
S「だって新城はコード書けないんですもん。書ける方、尊敬してます」
M「(た、他力本願教徒……)」
S「なんか言った?」
M「いえ。べつに」
X「で、オチは?」
S「え?」
X「おまえがそんなに現実的な打開策を思いついて、オチがないはずがないだろ。性格的に」
S「はあ……まあその、要は単純なことなんですよ……そもそも今回のグーグル訴訟騒ぎもそれが元で始まってるわけで」
M「(はっとして)そうだ! そうですよ! 今回のバージョンでも、僕が気づいた弱点はけっきょく克服されてないですし!」
X「だから、どういうこったい」
M「こういうことです:新城さんが思いついた一連の技法はあまりにも簡単すぎ便利すぎなので、違法なスキャニング&アップロードによるデータベースを防止できないんですよ! つまり〈裏グーグル・ブック検索〉を!」
X「お」
M「今でさえ違法スキャン&アップロードはあるわけですし。だから、ちゃんとした防止策を考えた上でないと、もしくは法律をきちんと整備しないと、あまりにも性能のいいスキャナや朗読をテキスト変換する機能をネットで大規模につなげちゃうのは、危なすぎるんです」
S「そもそも、まだ日本ではフェアユースに関する議論が落着したとも言いがたいしね……ようやく法律は改正されたようだけど」
X「でもおまえ、二つ目を創っておいたほうがいい、って言ってたじゃねえか。日の丸ブック検索(仮名)じゃダメなのか、国会図書館の」
S「うーん」
X「おまえのアイデアよりは桁違いに税金かかってるが、やろうとしてることは同じだろ。けっきょく」
S「そうかもしれませんが……現状のグーグルブック検索が完璧でないのと同じ意味で、それも諸手を上げて賛成ってわけにはいかないですし……仮に〈人類文明の図書館〉が将来できるとして、それを管理運営するのが商業主義の巨大企業か官僚主義の行政府か、どっちがいい?って言われましても……」
X「待て。グ社の事業も危ないって言いたいのか? 国家の暴走や管理と同じくらいに?」
S「うーん……そのへんは以前から書いてることですけど……グ社のサーバがぶっ壊れたり、突如として経営陣が交替して邪悪になったり、某国に買収されたり、という危険性は常にありますからね。今回の和解から戦略的にぬけておく、というのも一分の理はあるわけで」
X「そこまで心配してもしょうがねえだろ。利便性のほうが遥かにデカいぞ」
S「んー。その議論は、〈情報〉という観念をどう捉えるのか?みたいなややこしい話にもなっちゃうんですが。
今や、いったん公開された情報は、もう二度と非公開に戻せない。じゃあ、この先、グ社がヤバいことになっちゃったら(例えば△△国と妥協して全データを特定国家の特定部局にはお見せしますよ、とか言い出したら)? もしくは、情報独占によってグ社がとてつもなく強大な権力を持ってしまったら? あるいはまったく逆に、凄い暗号化技術*1&便利なマイクロペイメントと連動した有料購読媒体が開発されて、著作者が直接ユーザから料金徴収するのが当たり前の風潮になったら?
そうなってから『あ、やっぱり自分の書籍は非公開or有料に戻します』と宣言しても、もう電子の大海に出回っちゃってるデータは閉じ込め直せないし。
前にも書きましたけど、グ社はあくまでも一法人でしかないんです。これまで新城も無意識のうちにGoogleと表記してきましたけど、これは実は危険な表現なんです……彼らの理想と、提供するサービスと、会社としての実体を混同させてしまうという意味で。だから今回から、この三つの表記法を分けることにしてみました:

表記 定義
Google/Googling/Googlization すべての情報を検索&閲覧可能に!という理想、またそれが達成された状態
グーグル(〜ブック検索、等) 主にグ社が提供している(主に無料の)サービスや機能:また、それらを利用すること(→ググるetc)
グ社 米国カリフォルニア州に本拠地がある法人組織:全人類規模のGoogling達成を目標とし、『広告の最適マッチング』とでも呼ぶべきビジネスモデルによって、グーグル事業を展開中

みたいな」
X「じゃあ何か、ようするにおまえは反対なのか。例の和解案に」
S「というような単純な二択だとは思わないんですよ。つまり、

  • Googleという抽象的且つ普遍的な(そして遅かれ早かれ、どこかの誰かが達成しそうな)目標

と、

  • 現時点で僕たちの目の前に存在する、グ社という巨大法人組織のありよう

と、

  • 今回の(ほとんどフロック・パンチのような)グーグル・ブック検索の和解案&その後の騒動

とは、必ずしも同一ではないんです。たまたま三つ同時に日本語圏という内海に押し寄せてきたので、一つの巨大な衝撃波に見えてるかもしれないですけど。これは、三種類の波が互いに影響し合いながら織りなしている、ひどく複雑な現象なんですよ」
X「……ふうむ。未来の衝撃波Future Shock Waveを俺らはきちんとフーリエ解析せにゃいかんってわけか」
S「さらに言えば、『情報とは何か?』に加えて『(巨大な)法人とは何なのか?』も考えないといけない。それらは、どんな時にどんな風にふるまい、どう扱えば皆を豊かにし、どこをどう間違えたら悲惨な結果を招くのか? それらの定義や法的な位置づけは今のままでいいのか? どこをどう変更したら、誰に被害が及ぶのか? 皆が今よりも豊かに/幸せに/安心できるためには、誰がどこをどう変えるべきなのか……あるいは変えないほうがむしろ良いのか?」
X「前にもそんな話してたな。で、結論は出たのか」
S「どこがキーポイントなのかは、なんとなく解ってきました。つまり、(巨大な)法人があったほうがヒトもしくは文明全体の生産性は上がるのか下がるのか?という」
X「生産性の話なのか、これ」
S「だと思いますよ。もっとも、ここで新城が考えてるのは、かなり広義の生産性ですけど。ヒトがまわりの環境や他のヒトに働きかけて、なにかモノが出来上がったり加工されたり変容したりして、それが流通したり消費されたり増殖したりして最終的に関係者のみなさまが幸せになったりならなかったりする度合……というあたりまで。むしろ効用utilityの概念に近いのかも。区別をつけるために、〈生産性〉とか生産性'とか表記しといたほうがいいかもしれません。
というわけで、この話はさらに続きます……」
M「え、エンディングのギャグは無しですか?」
S「いや、今後だんだんシリアスな話になりそうなので」
M「(ちょっと残念なような安心したような、宙ぶらりんの変な気分)…………」

*1:最近はアクセス制限に関する技術体系についてはDRMという総称が定着しつつあるようですが、この技術の進展具合も新城には非常に興味深いところです。