世代間デフォルト intergenerational default

S「……という単語を思いついてしまったので、日曜は休もうかとも思ったんですが、忘れないうちに書いておきます」
M「って週一で休むつもりだったんですか。仕事ですか、この日記」
S「電子時代の小説家にとっては、どこでなに書いても半分仕事みたいなもんだよ。で、ここ数日書いた中でいちばん人気があったのが経済ネタだったので、これも経済ネタです。
最近話題の格差社会とか下流とか派遣残酷物語とか、ざっくり考えると世代間格差の話なわけで、だったら若い人たち年寄りの皆さんに対してデフォルトを宣言すればいいんじゃないの?という発想でして」
M「な、なんですかそれ! どうやったらそんなことができるんですか!?」
S「普通に考えれば、税金不払い運動なんだろうけど……それじゃあんまり面白くないので、この電子時代の若者たちにふさわしい方法は……そうだなあ……じゃあ、こういうのは? 若い人は消費税を払わずにおく」
M「だからどうやって!?」
S「簡単だよ。日本中の若い人が、ケータイのポータルを経由して、日々必要な食料品から趣味の嗜好品まで、すべて物々交換で済ませる
M「!?!?!?」
S「消費税は、取引されたモノに対応する金額に比例して徴収されるわけだから、モノが動いてもお金が動かなければ、取られようがないのですよ。こんだけ世の中でオークション・サイトとか電子通販サイトとかあるんだから、完全物々交換サイトくらい誰か作れるでしょ。交換したモノの価値の差額は電子的に記録だけしておいて、実際にお金を払わなければいい。地域通貨ならぬ世代通貨ですよ。というわけで、世の中に不満のある若い皆さん、「気分はもう希望は戦争」とか「極右サイコー!」とか不合理なこと言ってないで、合理的で実行可能で効果的な反政府運動をしたまへ。もしくは前世紀最強のゲリラ戦士から戦術を学びたまへ。政府の本質は通貨発行権なのだし、軍隊は胃袋で行進する(byナポレオン)のだ」
M「……(なんか騙されてるような気が)……ちょっと待ってください、交換はいいとして、最初の商品はいったいどこからどうやって手に入れるんですか?」
S「うむ。いいところに気がついたね。そのへんはぜんぜん考えてない
M「!!!」
S「だから最初から言ってるだろ、3分間概念だって。3分で思いつくことなんて、人間この程度なりよ」
M「(こ、この人はほんとうの***……)あの新城さんが妙に過激なこと言うから、おかしいなと思ったら、今回はそういうオチですか」
S「まあそんなもんです。でも今の日本でつらい目にあってる皆さんに同情的なのは本当ですよ。ちなみに、今回の歴史的大不況に関する新城の意見は、もう2年前に『ノベ超』ことライトノベル「超」入門 [ソフトバンク新書]の260~61pに書いておきましたので、興味のある方はそちらをお買い上げ——」
M「って、それくらいここに引用すりゃいいじゃないですか。たいした量じゃないんですから」
S「そうかなあ。まあいいや。要点は、
   ・2006年の「景気回復」は嘘っぽい
   ・同じく06年のアメリカは住宅バブル
   ・GMもあぶない
   ・FRB次第ではバブルが崩壊して、日本も無事では済まない
ってことなんですが、まさか引き締めよりも先にあんなバカみたいなシステムによって住宅とGMが相前後して吹っ飛ぶ……というケースは、さすがに予想できなかったわ」
M「(新書を開いて)あ、ほんとだ。景気回復あぶないって書いてある」
S「それに、もうちょっと早く不景気になると思ってたんだよなあ……まさかあれから2年も保つとは思わなかったですよ。そうだ、それで思い出した。こないだ新城が、
  『どうして世界はもっと効率的に結論に到達しないんだろう?』
と悩んでたら、近くにいたHa氏曰く、
  『悪いことは、よってたかって先延ばしにしようとするからじゃないですか』
と」
M「それはそうでしょう」
S「でも新城は今までその可能性に思い至ってなかったので、なるほど!と蒙を啓かれる思いでしたよ。いやほんと、なぜ現実世界は本格ミステリじゃないんだろう!」
M「んなムチャクチャな……」
S「そうかなあ。ミステリ物語世界のほうがよさげじゃん、現実よりも。少なくとも、人間の本質に近づく、という意味では本格ミステリは実に効率的で美しいと思うんですが。ダメ?」
M「ええまあ、あんまり世間的には多数派じゃない考え方ではないか、と……」
S「かもしれん。でも、21世紀の今になっても『ミステリは人間を書けてない』式のことを言う人がいたりして、新城はほんとにゲンナリしちゃうんだよ。モノのように人間を扱うからダメなんじゃなくて、そこが長所なんだってば。人間という存在を、ようやく単なるモノとして描けるまでに発達したのが近代ミステリという手法なのに!」
M「そうなんですか?」
S「と新城は妄想するんですが、どんなもんでしょう。ちなみに近代文学は人間を内面のある主体として書くのに適した手法だし、SFは人間&文明全体を接続法の塊として描く方向へと素晴らしく進化してるし……それぞれ作品/製品/商品の目的によって使い分ければいいだけであって、べつに優劣はどこにも」
M「はあそうですかそれはよかったですね(棒読み)。あ、そうだ。ちなみにその論法でいくと、ライトノベルは何なんでしょうか?」
S「それはもちろん、人間存在をキャラとして描くように発達した一手法ですよ」